RBTと応用行動分析|カップルや対人関係にも役立つ心理療法について解説
2024.3.7更新
RBTとは?
RBTとは国際資格Registered Behavior Technicianの略称になります。RBTの資格は応用行動分析(別称ABA : Applied Behavior Analysis)の知識や実技の試験を受けることで授与されるもので、主に自閉症をもつお子さんに応用行動分析に基づいた療育を実施する職種です。応用行動分析は、特に自閉症をもつお子さんに療育を実施する際に非常に有効であると注目されていますが、勿論、お子さんの療育だけでなく、その専門性は日常生活に幅広く当てはめて活用することができます。他に応用行動分析の知識を持つ職種としては、BCBA(国際資格Board Certified Behavior Analyst)といった資格もあります。
応用行動分析とは?
では、そもそも応用行動分析とは何でしょうか?簡単に言いますと、人の「行動」に焦点を当てた分野になります。応用行動分析は、繰り返されている行動を変えたい、改善したいといった時に、役に立つ考え方です。ターゲットとなる行動の前後に起こっている現象(結果)から、行動のメリットを整理していき、何故その行動パターンが維持されているかを見直すといった心理分析方法になります。
臨床心理学の中には様々な学問領域がありますが、その中に行動療法という学派があり、これが応用行動分析の原点に当たります。行動療法は1950年代以降に台頭してきた心理療法で、「人の行動や認知は学習によるものである」という学習理論を基盤としています。“パブロフの犬”という言葉で有名な実験は、『犬に餌を見せると同時にベルを鳴らす』という条件を設定することにより、犬がベルの音を聞いただけで唾液を分泌するようになるという学習をPavlov,I.o.が明らかにしたものです。心理学ではこれを「レスポンデント条件付け」と呼びますが、例えば夫婦の“思い出の曲”があったとして、その曲を聴くと胸が高鳴るといったことも条件付け学習の1つと言えるでしょう。
応用行動分析とコミュニケーションパターン
私は応用行動分析をヒントに、人と人とのコミュニケーションのパターンも見立てることができると考えます。人と人のコミュニケーションは応用行動分析の視点から見ると一種の“行動”であり「経験的に学習されたもの」と捉えることができます。そのような応用行動分析の視点を用いながら、コミュニケーションの不和を解消していく作業が可能です。
具体的には、ターゲットとする行動(コミュニケーションパターンの一部)を決め、その行動のメリットを列挙していきます。これは、自分にとってのメリットだけでなく、他者にとってのメリットも発生している場合があります。このようなメリットの探索は、自己の視点だけでは考え方が偏ってしまうため、セラピストや信頼できる友人や家族といった他者の視点を交えながら行うとより効果的でしょう。メリットを一通り列挙できた後は、行動パターンを変える方向にいくのか、あるいは今ある行動パターンのメリットを大切にしていくのかをセラピーの中で協議し、パターンを変えるための作戦をセラピストと共同で立てます。
パターンの裏にある“事情”
コミュニケーションパターンを変えたいという時、注意しなければならないのが、人の行動の裏にある一種の“事情”です。“事情”はつまり、その人の行動に影響を及ぼしている因子であり、パターンを維持せざるを得ない理由です。学習理論を基礎とするならば、人の行動、コミュニケーションパターンの全てはその人の「学習の成果」であると言えます。その“事情”は、例えば自分が幼少期に見てきた両親の関係性の在り方から学んだことであったり、普段の対人関係・家族関係における自分の立ち位置から学んだことであったりします。そのような様々な個人の体験がその行動パターンを維持する因子として働きます。問題となっているパターンは、その人自身が努力し、学習した結果見出した最善の行動であるとも言えます。この“事情”については、セラピーで深く取り扱って整理をしていく必要があります。
架空事例の検討
Aさん(30代男性)は会社の役員をしています。毎日仕事で忙しく、家庭に戻るのは夜遅くになってしまいます。家には生後半年の赤ちゃんと、育休をとって赤ちゃんの世話をしている妻がいます。平日は育児を妻に任せ、休日には自分が育児に関われるようAさんは心掛けていました。妻はというと、離乳食を受け付けず、体重がなかなか増えない赤ちゃんを見て、育児への焦りを感じているようでした。妻はAさんに「もっと子どもの成長について調べてほしい」「もっと主体的に関わって子どものことを心配してほしい」等と言います。Aさんは妻からの言葉を聞いて、だんだんと腹が立ち、妻や子どもの居ない部屋に行って距離を取ります。しかし、そうすると大抵妻は「ちゃんと話し合ってくれない」と泣いて、赤ん坊を連れて近隣に住む自分の両親のもとに行ってしまいます。数日たつと妻は赤ちゃんと連れて家に戻っては来ますが、こういった日々が続き、Aさんは漠然と夫婦のコミュニケーションに悩みを抱えるようになりました。妻との衝突を避けたかったAさんは、1人だけでCOBEYAに相談をすることにしました。
事例解説
このケースで、Aさんの行動を分析していきます。問題とされているコミュニケーションパターンの一部を見てみますと「妻がAさんに要望する→Aさんが聞く→妻がAさんに続けて要望する→Aさんがその場から退席する→妻が家から出る」といった行動があります。セラピストは、妻がAさんに要望した際、Aさんがその場から退席せずにいること(行動パターンを変えること)は可能かと尋ねました。するとAさんは「その場にいても喧嘩が酷くなるだけだ」と言います。セラピーで話を整理するうちに、Aさんは幼少期に自分の両親の激しい喧嘩を頻繁に見ていたことが分かりました。Aさんの中には幼少期の体験から「喧嘩は極力避けるべきだ」という考えが学習されており、その対処行動として妻とのコミュニケーションにも「その場から退席する」という行動が頻繁に表れていることが考えられました。Aさんの「退席する」という行動は、自分の両親のような激しい喧嘩をすることを防ぐためのものだったのです。妻から「話し合ってくれない」と見られているAさんの退席行動は、むしろ妻との関係を守るために維持されている行動だったということです。妻との話し合いを進めるにはカップルセラピーが必要であると考えたセラピストは、妻がAさんから見てどんな人なのか、自分がどんな人間なのかを十分に語ってもらいました。そして、本当に自分の両親のような激しい喧嘩が今の夫婦の間で起こりうるのか、セラピーの中でAさんと一緒に考えていきました。何度かセラピーを重ねるうちに、Aさんは「自分も妻も、激しい喧嘩をしていた両親とは違う。冷静に妻との話し合いを実施することができる」といった考えが浮かぶようになり、COBEYAのセラピーに妻と一緒に来てみようと決断することができました。その後、Aさんはセラピーを通して、家庭では行えなかった夫婦での建設的な話し合いを行うことができました。
解説まとめ
以上、応用行動分析とは何か?応用行動分析の要素を取り入れたセラピーとはどんなものか?をちょっぴり紹介させてもらいました。実際には、応用行動分析に基づいたセラピーは、クライエント様の行動について情報収集し、目標や方針をクライエント様とご相談の上で具体的に決めていきます。“心”と聞くと曖昧で捉えにくいように感じますが、応用行動分析では“心”は行動に表れていると考えますので、問題解決に向けて、行動レベルでの具体的なステップについてご相談頂きやすいかと思います。